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初花凛々
第35章 月の色人
凛は息を潜め、毛布に包まりジッとしていた。


「凛〜いつまで寝てんの〜」


もう何時かもわからないが、麻耶が部屋へとやって来た。


今日は休日。こんな日に限って、なのか、どうなのか。


凛は寝たふりを続けた。


……が。


「ひゃはは〜っ」

「起きろって」

「起きる起きる!起きるから……あはは」


擽られて、凛はひーひー言いながら飛び起きた。


「やっと起きた」


麻耶は笑った。それを見て凛も笑うつもりが、なんだか上手く笑顔が作れない。


曖昧な笑みを浮かべた凛の手を引いて、麻耶はリビングへと凛を連れて行った。


「あれ?帰ったの?」

「うん」


リビングには、瀬名と新山の姿は既になく。


「昨日リビング貸した詫びとして、あいつらが朝飯作ってくれた」


そう言われて見ると、テーブルの上にあったのはコーンフレークに牛乳をかけたもので、凛は笑ってしまった。





_____麻耶の最初の彼女に似てるよな



ふとした瞬間に呼び起こされる先ほどの言葉が、凛から笑顔を奪ってしまう。


「りーんー」


元気のない凛を、麻耶は気付いているのかいないのか。


そんな凛の頬を、むにむにと摘んだ。






_____不安?


そう問いかけてくる麻耶は容易に想像出来る。


麻耶は凛の気持ちの変化に敏感だから。


_____だとしても過去だから


そんな風に言う麻耶も想像出来てしまう凛は、麻耶に正直に打ち明けるべきか。それとも平静を装い続けるか、迷っていた。








「いや、やっぱり無理っ」

「え?」


凛は、頬をつまむ麻耶の手を掴んだ。


「麻耶ってさ!」

「ん?」

「私みたいな女が好みなの!?」

「はい?」


また、唐突で脈絡のない凛に麻耶は笑った。


「てっきり私はタイプ外だと思って油断していた」

「一体なにがあった」

「まさか本当はタイプだったの!?」


とりあえず落ち着けと、麻耶は凛をなだめた。


けれどそれで落ち着く凛ではない。


「あの子の代わりにはなれない!」

「どの子だよ」

「嫌だぁ麻耶ぁ」

「だから、なにが?」


こんな凛に付き合い続ける麻耶もまた、なかなかの根性の持ち主だと、少しだけ残る冷静な頭で凛は思った。
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