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初花凛々
第35章 月の色人
凛は正直に、打ち明けることにした。上手く気持ちを誤魔化して、愛想笑いを浮かべるなんか無理だ、と。


先程の瀬名の台詞が気になって気になってしょうがないということも。



「だから……その、彼女の代わりにはなれない……」


もしかしたら、麻耶はその子の面影を凛に重ねただけかもしれない。どんどん自分の世界にのめり込んで行く凛を、麻耶は黙って見守っていた。


「……って何笑ってるの」

「いや」


何が面白いのか、麻耶は笑った。


そういえば突っ立ったまま話し続けている凛を、麻耶は座らせた。


麻耶の脚の間にすっぽりと収められた凛は、思わず簡単にほだされそうになってしまう。


「……全然、違うから」

「え?」

「凛みたいな子、いないよ」


それってどんな子?


聞こうと思ったけど、麻耶の唇が重なったから。凛はその問いは飲み込んだ。


唇から伝わるのは、とても優しい彼の温度。


_____何を私は心配していたんだっけ。


そんな風に思えるほどに、不安も、心配事も消し去ってしまう魔法の唇。


そう、言葉なんかなくたって。


目の前にいる麻耶だけを信じていればいいのだと、凛は思い返す。


周囲の言葉や、そんなものに耳を傾けるくらいならば。


信じたくないことの方が多いこの世の中で、信じたいものはたったひとつだけ、と。







「麻耶を仕留めたのはどのおなごじゃ〜」

「おまえ誰だよ」


過去は気にならないと言いつつも、麻耶の部屋にあった卒業アルバムを発見するや否や、凛は張り切ってページを捲った。


小学校のアルバムもちゃんと保管して、上京時にまで持ってくるだなんて。マメだねと凛は笑った。


「って高校は男子高だから、初めての彼女って」

「中学」

「ひゃ〜。中学なんて、私恋愛のレの字もなかった!」


早いねぇと感心しつつ、凛はページを進めて行った。









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