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初花凛々
第35章 月の色人
「待って!麻耶は何も言わないで!私当ててみせる!」

「はいはい」


なんとなくだけれど、凛の中学よりも大人びた子が多いなぁと思いつつ。


凛はページの端から端まで観察してゆく。






「……ダメだ全然わからない」

「わかんなくてもいいよ」

「いいなぁ、麻耶には過去があって」

「あぁ、そっちで塞ぎこんでたのか」


麻耶は、まだ凛という人を理解仕切れていなかったなと思った。


そう。凛は先ほどから嫉妬というよりも。私には、語れる過去が何もない、と、卑屈になっていたのだ。


誰にでもある過去。それが何もないことが、急に嫌になったりもする。


「別になくたっていいし、そんなん」

「えー?そうかなー?」

「肝心なのは最後だって、よく凛は言うじゃん。つーか、今度凛の卒アルも見せてよ。ちょー見てぇ」

「見ない方が麻耶のためだと思う!」

「なにそれ」


絶対見てやる、と麻耶は意気込んだ。


「ていうか、お腹すいたね」

「うん。コーンフレークじゃ満たされない」


麻耶のキッチンをほぼ把握しつつある凛は、戸棚からスピナーを取り出した。


「麻耶はレタスを千切る係に任命されました!」

「されちゃいました」


レタスをザッと冷水であらい、スピナーに入れぐるぐると回す。



白ビネガー、レモン、塩胡椒、オリーブオイルをひたすら混ぜ、ドレッシングを作った。


豆腐を切り、そして種類豊富に揃えられている調味料の中にあった、ゆずパウダーを仕上げにふりかけて完成。


「すげぇよ凛ちゃんの3分クッキング」

「ふふ。アボガドだったらもっといいらしいけど。私そんなお洒落なの扱えないからお豆腐で」

「豆腐いいじゃん」


やっぱ親父は冷奴だよねと凛は思いながら、サラダボウルに盛り付けた。


それだけじゃ足りないだろうと、ホットケーキも焼いた。部屋がバニラの匂いで満たされて、凛のおなかも空腹を伝えてきた。






「そーいやこれ行かない?取引先から貰った」


と、麻耶はパンフレットを差し出してきた。


「泡盛三昧沖縄フェア……!」

「ね、行こ?」

「ぜひ!」


泡盛は飲んだことがないだとか、ハブ酒はあるだろかと盛り上がる凛の頭からは、さっきまでの悩み事なんて、とうに消えた。












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