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初花凛々
第36章 桜雪
泡盛ハイボール。シークワーサー添え。


あまりに飲みやすくて、それが災いした。


「凛ちゃ〜ん」

「ま、麻耶。どした」


麻耶が、まるでいつもの凛みたいに。ヘロヘロに酔っ払ってしまった。

「酔いすぎだよ〜」

「酔ってねーし別に」

「はいはい。酔ってる人ほどそう言うからねー」


もう完全に目が座っちゃってる麻耶は、ゴクゴクと泡盛を流し込む。


「ちょっと、もうやめとこ?」

「なんで?俺明日休みだし」

「それは私もだけど……」


そう、凛も麻耶も明日も祝日のため休みではあるが、こんなにも酔ってる麻耶は稀なので心配になってしまう。


「とりあえず、ロビー出よっか」


会場内は、人々の賑わいと熱気で暑かった。


麻耶を連れロビーに出るとまた、大きな窓から都会の夜景が望めた。


「ロビーだとちょっと涼しくていい感じ」


凛はロビーに置かれているたくさんのソファのひとつに、麻耶を座らせた。


「凛もここ、座って」

「はいはい」

「早く」

「わかったって」


今日の麻耶は子どもみたいだと思って笑ってしまう凛。けれど子どもは酒なんか飲まないよねと、心の中で1人ツッコミを入れる。


宝石みたいな夜景を、麻耶と2人で並んで眺めた。


なんだかこんなの、ドラマのワンシーンにありそう、と凛はワクワクした。


「……凛」


麻耶に名前を呼ばれ、凛は麻耶の顔を見た。


麻耶は凛の名を呼んだけど、俯いたまま。


「え、なにどうしたの。もしかして気持ち悪い?」

「……いや」

「眠たい?」

「違う」


麻耶はスーツの裏側を弄り、カードを取り出し、凛に見せた。


「なにこれ?」

「気付けよ」

「わかんない、なに?」


一見、キャッシュカードにも見えるそれを、凛はまじまじと見た。


が、やはりこれがなんなのかわからない。


「前、凛が言ってたや〜つ」

「へ?」


まだピンと来ない凛の耳元で、麻耶が囁く。


「今日、ここの上とってるから」


麻耶が手にしていたそのカードは、ルームキー。


「しかも隠れスイートだったりしちゃう」

「ひゃあ〜っ!」


まさか、ドラマの世界を体感することになるなんて。


凛は感動してしまった。


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