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初花凛々
第37章 雪消月
新山の姿を見て、凛も気力を奪われたような気がした。


18時。普段はここで帰宅だが、凛のデスクには未処理の書類が山積みだ。


「……まっず〜」


自分で先程淹れたコーヒーも、淹れたはいいが飲む暇もなくパソコンを叩いていたら、いつのまにか酸化して不味くなってしまった。


_____気分転換に、なにか冷たいものでも飲もうかな。


そう、思った矢先。


頬に、ヒヤッと冷たい感触がした。


「お疲れ」

「麻耶!」


麻耶が、冷たいビタミンドリンクを差し入れしてくれた。


「なんか久しぶり!麻耶!」

「そーだね」


社内でいつも顔は合わせるけれど、こうして話すまでには至らずにいた2人。


麻耶は麻耶で、案件をたくさん抱えているし。それに先程如月が野村に言っていた通り、営業部では今、新たなプロジェクトが始動しているため忙しい。


「営業部って、忙しくない時あるの?」

「あるよ」

「いつ?」

「倒れた時とか」

「それダメじゃん……」


凛は麻耶とこうして親密になってからは、営業部の大変さを知った。


麻耶もまた、人事部のデリケートな仕事内容に理解を示してくれている。


「落ち着いたら、またゆっくりしよ」

「うん」


麻耶と過ごす時間を心待ちにして、励みにして。


麻耶の顔を見たら、折れかけた心がまた、真っ直ぐになる。






それから凛は、ドリンクの力もあるのか、怒涛の勢いで仕事をこなした。


翌日も、そのまた翌日も。


けれど、主不在の新山のデスクを見て、悲しくなった。


そう、新山はあの一件以来、会社に姿を現さなくなったのだ。


凛は2度、新山に連絡を入れた。


しかし返事は来なかった。
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