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初花凛々
第5章 夕凪
須田は何も要らないと言ったけれど、凛は勿忘草の緑茶と羊羹を盆に載せテーブルへと運んだ。


それを見た須田は笑い、羊羹を一口食べた。


「あまっ」

「羊羹だもん、甘いよ」

「俺、羊羹て初めて食べた」

「そうなの!?」

「想像より美味い」

「でしょ!?」


凛は、自分の大好きな勿忘草の菓子を褒められ嬉しかった。芋焼酎の件といい、須田とは食の好みが合うかも、と思った。


「ところで、須田くんの用事はいいの?」

「用事?」

「そう。デートに行くって言ってたのに…私が引き留めちゃったから」


須田は少々考え、「じゃあそろそろ行くわ」と言って、半分ほど残っていた羊羹を口に運んだ。


「今日は本当にありがとう」


凛は、玄関で靴を履いていた須田の背中に向かって礼を言った。


「……今度また、セッティングしてやるよ」

「ん、でも、西嶋さんと二人きりだと緊張しちゃう」


まるで学生の初恋みたいなことを言う凛。けれど須田は、そんな凛のことを馬鹿にしたりはしない。


「頑張れよ」


そう言って、エールを送った。
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