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初花凛々
第38章 風花
「あーあ、行っちゃった……」


午後6時。


凛と麻耶は、新山を見送った。


家まで送るという申し出に、駅でいいですと頑なに譲らなかった新山に従った。


改札を抜けて行く新山の後ろ姿を見ながら、凛は呟く。


もしかしたら、社内では新山の一番近くにいたかもしれない凛。


けれど、なにひとつしてあげることが出来なかった。


それどころか、麻耶のように最後に励ましの声すら、かけてあげることも出来ずに。


自分の不甲斐なさに、呆れる。


_____と、その時。






「おそ」


そんな麻耶の声に振り向くと、姿を現したのは瀬名。


「わざとだよ」


瀬名は呟く。


麻耶がここに瀬名を呼び出したのかは、今の凛にはわからない。



今日、もっと早く瀬名が現れていたら。


ドラマチックで、それでいて幸せな結末になったのではないか、と凛は思った。


「俺といない方が、あいつは幸せになれる」


と、瀬名は言う。


_____どうして?


あんなにも瀬名を求めているのになぜ。


そこを理解できない凛は、やはり恋愛の世界観はよくわからないと思った。


あとで麻耶に聞こう。きっと麻耶なら、この疑問も解決してくれるだろうと思える。


ずっと付き合っていた、1番愛しているであろう女性との結婚を決めた瀬名。


けれども凛の目に、瀬名は幸せそうには映らなかった。


それよりならば、麻耶の部屋で、新山の隣にいた瀬名の方が


ずっと幸せそうに見えた。







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