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初花凛々
第39章 春告げ鳥が啼く
コテージへと着いたのは、17時。


辺りは薄暗かった。春が近いとは言え、山間はまるで春の訪れを拒むように冷たい風が吹いていた。


酒の調達はいつの間にしたのか。麻耶の車の後部座席からは、樽も降ろされた。


それに甘い缶酎ハイも。期間限定の春イチゴ味のものや、マスカット味のもの。この可愛らしい酎ハイはきっと椿が飲むんだろうなと凛は思った。


日本酒やワインまでたくさんの瓶がある。そしてその中に黒霧島を見つけた凛は、嬉しくなった。


今日の夕飯はもつ鍋。


「俺たち夕飯作るから」


麻耶がそう言って、他の皆には温泉へ行くよう勧めた。


麻耶の言う俺たちとは、当然凛のこと。


「凛、俺ニラ係ね。前みたいにフニャフニャにならないよ、きっと」

「お手並み拝見します!」


コテージの中の、凛の部屋と大差ないこじんまりとしたキッチンで。凛は麻耶と2人、まるでいつものように食事の支度に取り掛かかった。


「須田くん。あたしも手伝うよ」


キッチンに顔を出した椿のそんな申し出に、麻耶はノーと返事をした。


「温泉ゆっくり楽しんでくればいいよ」


麻耶のそんな言葉を聞き、凛は少しだけホッとした。


他の3人は温泉へ向かい、コテージには凛と麻耶の2人だけになった。


「麻耶、よかった」

「なにが?」


モツを酒と生姜で下茹でしながら、グツグツとした音に混ざり凛の声が麻耶へと届く。


「椿さんと普通に接してるから……よかった」


凛は、自分のせいで麻耶と椿がギクシャクしてしまったらどうしようと思っていた。


あの時凛は酔っ払っていたが、酒のせいには出来ない。


人の気持ちを勝手にバラすなんて、最低なことをしたと思った。


「……よかったって、そこかよ」

「ん?」


ニラを切る手に力が入ったのか、今回もまた、麻耶の切ったニラはフニャフニャと草のよう。


「ねぇ麻耶、前と変わんない」


凛は可笑しくて、笑った。


「凛のせい」

「なんでよ」


久しぶりに笑えた、と凛は思った。


やはり麻耶といると楽しい。


こうしてキッチンに並ぶのも、いつぶりだろうか。


「楽しい〜麻耶〜」


麻耶もまた、久しぶりのこんな時間の訪れを楽しんでいるようだった。


凛は心の声が漏れまくりだねと、麻耶は笑った。

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