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初花凛々
第40章 狂い咲き
その電話は、早く来いと急かすものだった。


しかも、西嶋ではなく、椿の声。


凛は再び気が滅入る。


声の感じから、椿はまだ不機嫌な様子だった。



「はい、須田くんどーぞ」


けれどもコテージへ戻ると、ニコニコとしている椿が、泡が綺麗に注がれた生ビールを麻耶へと差し出した。


「買い出しありがとうー」


向日葵のような笑顔を振りまいている。やはり、椿はこのグループの花だ。


椿が笑う、それだけで、雰囲気がぱあっと華やぐ気がする。


凛はというと、チビチビと酒を飲みながら、ツマミを食べて、ひたすら相槌を打つだけで。


「芋って美味しいの?」


珍しく椿が、凛に話を振ってきた。


珍しく、というか。初めてかもしれない。


なんとなくだけれど、また不愉快にさせたらどうしようかと不安に思い、凛はチラッと周囲を確認した。


今回存在のなかった田川は既に寝たのか、姿がなかった。


西嶋は麻耶を捕まえて離さず、麻耶は潰れる寸前のところ。


小松……は、いたとしても意味がないと思い探しもしなかった。


「美味しいですよ」


凛はそう伝える。椿は予想どおり、マスカットの匂いをさせながら可愛らしい酎ハイを飲んでいた。


_____芋飲んで、ホッケ食べてる女。麻耶には似合わない



凛は、そう言っていた麻耶の元恋人、橘さくらのことを思い出していた。



「あなたは1人で満足出来る?」


いきなりの椿からの質問に、凛は何のことかわからず、間抜けな顔をしてしまった。


理解していない様子の凛に、椿は言葉を被せてきた。


「私はね、満足出来ないの。例えば私が一輪の花だとするじゃない?一匹の蜜蜂じゃ足りない。私は、蜜蜂が多ければ多いほど良い」


自分の恋愛観を花と蜜蜂に例えるとは。秀逸だと、凛は思った。


「須田くんも同じタイプだよ、私と」


だから、いいよね?


椿は凛以外の誰にも聞こえないような声で、凛に囁いた。
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