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初花凛々
第41章 恋蛍
あれから、凛はすっかり眠ってしまった。


次に目を覚ました時、背中に感じていた麻耶の温もりはなく。


ひゅっと涼しい風を感じた。


以前にも感じたことのある、この感じ。


あれは宮城での夜だ。


あの頃、自覚はしていなかったが凛は既に麻耶へ想いを馳せていた。


人として、友として、そして、男として。


あれから2人は1度少しばかりの距離を置いた。


その時、完全に凛は麻耶への想いを自身でも認めていた。


_____なんであの時、私たちは1度離れたんだっけ。


そこにも凛の気持ちは一切反映されていなかった。あの時も、"もうSEXの手ほどきは必要ない"という麻耶の意志から、2人は離れていた。


凛はそんなことを急に思い出して、怖くなった。


もし、麻耶が私のこの手を離したら_____


それこそ一瞬で、この世界に色はなくなってしまうと思い、凛は怖くなった。


_____そんなの、嫌だ。


凛は泣きたくなった。それを想像しただけで。


麻耶のいない世界なんて、考えられない。考えたくもない。


気分転換に顔でも洗おうかと思い、凛は寝室を出た。


すると、真夜中の洗面所には先客がいた。


ザブザブと冷たい水を出して、顔を洗っていた。麻耶が。


キュッと蛇口を捻り、手のひらで水の滴をある程度落としてから、パッと顔をあげた麻耶と鏡越しに目が合った。


「うお!?」


という、普段の麻耶からは出てこないような、面白い声が出た。


「なににビックリしてるの?」

「いやいや、ビビるだろ!真夜中の洗面所だぞ!?」

「ふーん?おばけかと思ったってこと?」

「そう!俺も遂に見ちゃったかと思った」


考えてみれば、確かに驚くよねと凛は思った。


来た時は誰もいなかった洗面所。顔をあげ鏡を見たら、ぼうっと女が立っている。


「ホラーだ」


凛は面白くて笑った。


「凛で良かった、マジで」


と、麻耶も笑った。


前髪が少し濡れているからだろうか。いつもは笑うと子どもみたいになる麻耶が、今はなぜか、色気のある男の顔に見えたから。


凛はそれから、目をそらすことが出来なかった。









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