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初花凛々
第42章 桜色の川で
「……気持ち良い」


ぽつりと麻耶が呟く。


タオルを乗せると、麻耶はしばらく目を瞑っていたから、もう眠ったと思っていた。


「サッパリするでしょ」

「うん、タオルもなんだけど……凛の手が気持ち良い」


先程から、麻耶は凛の指を握って離さない。


「気持ち良いから、離すなよ」


少々強引な口調だけれど、可愛さがだだ漏れしてしまっている麻耶に凛は頬を緩ませる。


「可愛い、麻耶」

「どこが」

「もう食べちゃいたいくらい」

「なんかエロいな」


と、こんな冗談まで飛び出すくらい本当は元気なんでしょうと凛は笑った。


「なにか口にしなきゃ、治るものも治らないね」

「いい、食べたくない」

「食べないとお薬も飲めないよ?」

「凛のことは食べたいんだけどね」


ほらやっぱり元気じゃん、と凛は可笑しかった。


結局凛は、消化のいい雑炊を作った。おかゆは苦手だとか、野菜は食べたいとか麻耶が言うので凛はそれに従った。


「生き返る〜」


半日以上ぶりに食べ物を口に入れたせいか、少ししか食べられなかったけれど。それでも食べてくれた姿を見て、凛はホッと胸を撫で下ろした。


市販薬だけれど、風邪によく効くという薬を凛は買ってきた。一応、ドラッグストアの薬剤師さんに相談したからきっと良くなるよと、優しく語りかけられながら。麻耶は苦い粉薬を飲まされた。



「じゃあ私」

「帰るとかなしね」


帰ると言う前に制される。


それもまた可笑しくて、凛は笑った。


「ねぇ、俺もう元気なんだけど」

「そんなすぐ良くならないって」

「いや、マジだから」


体温計でもう一度。麻耶は今度は、自分で計測した。


「38.6」

「下がったけど、まだまだだよ」

「え〜」


エッチしたかったのにーと、麻耶は残念そうに呟いた。


「じゃあ、する?」

「え」


いざ凛が乗り気になると、風邪が移るからダメだと麻耶は言う。


「もう。どっちなの!」


凛が怒ったふりをすると、怒った顔も可愛いね、だなんて。


笑いながら言う。いや、目は真剣だ。


「今日の麻耶、変」

「そりゃあ。熱あるしね」


いつもより、何割り増しかで軽くて、子どもみたいで。


こんな麻耶も好きだと凛は思った。
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