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初花凛々
第42章 桜色の川で
凛は買ってきたスポーツドリンクをグラスに注いで、麻耶へと差し出した。


麻耶はそれを受け取り喉へ流し込むと、爽やかなグレープフルーツの香りが凛にも届いた。


熱で火照った身体が、少し冷やされて心地良い。


熱でうなされ朝から今まで殆ど眠れなかったけれど、ようやく眠れそう、と麻耶は思った。


「眠ったと思って、帰ったりしないでね」


麻耶は布団から目だけを出してそう言った。


極め付けに、「手握ってて」などと言う。


「麻耶、私のことどうしたいの」


可愛すぎて、本当に食べちゃうよと、凛は笑った。


「……なんか看病されてばっかだな」


眠ったかと思わせて、麻耶は時をあけてぽつりと呟く。まるで、凛がそこにいることを確認するように。


「そう?」

「うん。牡蠣の時とかさ」

「ふふ。私もそれはさっき思い出してたよ」

「あの時にはもう、俺凛に完全に惚れてたわ」


いきなり、予想もしていなかったカミングアウトをされた。


言いながら、麻耶は笑った。


お日様みたいな体温で、お日様みたいな笑顔で。


「実は、宮城からの帰りの新幹線で言われたこと、俺聞こえてたんだよ」


_____好き


そう、新幹線で凛はその二文字を口走ったのだ。


これにはもう、凛は動揺を隠せない。麻耶の布団をバッと剥いだ。


「嘘っ」

「ほんとー」

「じゃあ、私の気持ち知ってて、なのになんであのあと」


_____麻耶は私と距離を置いたの?


凛の気持ちを知りながら、麻耶は凛と距離を置いた。


"もうSEXの練習はしなくてもいいかなって"


あのとき味わった、不安と寂しさを凛は思い出す。


そして凛と麻耶は、あの時の恋の答え合わせを、今から始める。






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