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初花凛々
第42章 桜色の川で
凛はなぜかこの時、泣きそうになった。


それはきっと当時の気持ちが蘇ったから_____


かもしれない。


「怖かったんだよ、俺」


麻耶の瞳もまた、潤んでいる。熱のせいだと思うけれど、実際はどうなのかは、麻耶にも凛にもわからない。


力なく添えられていた凛の指を、麻耶は強く、握った。


「新幹線で、凛にそう言われて嬉しかった。嬉しかったけど、その時の凛の顔がさ」

「私の顔が、なに?」

「うっかり言っちゃった、みたいな。間違えたーみたいな顔してたんだよ」


確かにその時、凛は口を滑らせていた。


麻耶に伝える気なんか毛頭なかったのだから、しまった!と思ったのもまた事実。


「だから、聞き返したんだ。なに?って。今なんて言ったの?って」

覚えている。ハッキリと。


「そうしたら、凛ははぐらかしたんだ。なんでもない、って。だから、ただの気の迷いだったのかなって、すげぇヘコんだ」

「そうだったんだ……」


そう


あの時凛は必死にはぐらかした。


麻耶が聞いていなくて良かったと思った。


けれどもそれは、「好き」と伝えたら麻耶に嫌われるんじゃないかと怖くて。


怖くて怖くて


誤魔化しただけのことだったのに_____と、凛は伝えた。


そして麻耶もまた、凛の言葉を本気にするのが怖かったと打ち明けてきた。


「……だから、凛の誕生日の日に、もっかい告白された時はビックリしたし、嬉しかった」


ついでにもうひとついい?と、麻耶は改めて凛に確認してきた。


「うん。なぁに?」

「……凛さぁ、よく、初めてよりも終わりが大切って言うじゃん」

「言ってたかも」

「それ、微妙に傷つく」

「え、どうして?」


どこが、どのように傷つくのか。凛には予想すらつかなくて。麻耶の次の言葉を待った。


今日の麻耶は、いつもの何倍も気持ちを露わにしてくれる。


熱のせいだとしても構わない。


むしろ、熱に感謝したいくらいだと思いながら、凛は無意識に麻耶の指を強く握りしめた。



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