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初花凛々
第42章 桜色の川で
「それってプロポーズ!?」


_____翌日、勿忘草には、雫の興奮した声が響いた。


「ふふ、うん」


凛は照れくさそうに笑い、運ばれてきた桜湯に口を付けた。


桜の花の塩漬けが、ゆらゆらと湯の中で楽しそうに揺れている。


「へぇ、そっかぁ。まさかあんたが先に行くとは」


雫は喜びよりも先に驚きがやって来たと言い、目を丸くさせて凛を見た。


「私もビックリしたよ」


凛はほうっとため息混じりに、勿忘草の窓から外を眺め、昨晩の夜のことを思い浮かべた。





_____俺の最後の女になって


初めはピンと来なかった。


まさかあのタイミングで、麻耶がそんなことを言うなんて誰が予想しただろうか。


麻耶はそんな言葉を凛に向けた後、2度、凛を抱いた。


プロポーズのあとの麻耶は、普段よりも何倍も情熱的で。


ひどく甘い夜だった。






「で、あんたはなんて返事をしたの?」


雫の鋭い視線を避けるように、凛は皿の上に置かれた桜餅を見つめる。


桜の葉から、青空に映えるような鮮やかな桜色の餅が覗いていた。


「……実はまだ、返事をしていないの」


凛が正直に答えると、雫は信じられないというような、けれども予想していたとでも言いたげな、そんな瞳で凛を見た。


「……もしかして、返事は……」


雫が深刻そうな声を出したので、凛は慌ててそれをかき消す。


「返事はイエス。それしかないよ」


けれども、凛はまだ夢の中にいる気がして、返事を出来ずにいたのだ。


昨日、麻耶は高熱にうなされていたし。


それこそ、以前の凛のように"うっかり"だったのならばどうしようと、そればかりが頭に浮かんでいたから。


「……このあと、麻耶と桜を見に行くの」

「もう散りかけじゃない」

「うん、そうなんだけど。あえてこの時期にしたんだ」


"雪の舞う速さと、桜の舞う速さは同じなんだよ"


麻耶がそう教えてくれた時から、凛は麻耶と舞い散る桜を見たいと思っていたから。


桜吹雪を。


「今日、聞き返すんだ。もう一度」


あの日のように。


聞き返して、もしもう一度伝えてくれたなら。


今度こそ返事をしようと凛は思いながら、ほんのりと甘い桜色の餅を頬張った。



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