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初花凛々
第43章 紅差し指
麻耶もまた、凛と同様記憶を巡っているように宙を見つめていた。


「……じゃあ、昨日桜庭が言ってた"説明会で見かけた一目惚れの彼女"って凛のことか」


そう問うと、桜庭はバツが悪そうに小さく頷く。


「……胡桃沢さんは覚えてないかもしれませんが、企業説明会でもお会いしています」


確かに凛は説明会に赴いている。社の人事担当として、求職者向けにパンフレットを配ったり質問に答えたりした。


「俺は一目でわかりましたよ。あの公園の人だ、って。些か不純ではあるけど、それでここの社を第一希望にしました」


____そんなこと言われても困る、と、凛は正直なところそう思った。


「……でも、面接官には胡桃沢さんはいなかったし、それに配属先も違った」


それを聞き小松は眉をひそめながら、少々きつめに言う。


「じゃあ、何。やめたいとでも言うわけ?」


小松の眼光は鋭く桜庭を捉えている。が、桜庭はそれをするりと避け、答える。


「……いえ。まだ入社して僅かですが、ここの社の人達は魅力的な方が多いです。それに営業部の先輩方も皆親切ですし」


____やると決めたからにはやります。


桜庭は、小松に張り合うような____


強い眼差しでそう言った。


「……そんなん、いちいち口に出すなよ。有言実行の奴は好きじゃない。不言実行がかっこいいじゃねーか」


小松はそう言い捨てて席を立った。


その場に残された桜庭と凛と麻耶は、この賑やかな店内で唯一静まり返っていた。
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