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初花凛々
第43章 紅差し指
その空気を打破しようと凛は思うのだが、何を言ったらいいのか例の如くわからない。


「……須田さん、俺、仕事ちゃんとやります。だから色々教えてください!」


空気を変えたのは、空気を沈めた張本人桜庭だった。


「あ、やべっ、また有言してしまった」


言っておきながら慌てふためく桜庭を見て、凛は思わぶ頬を緩ませてしまう。


「まぁわかんないことあったら何でも言って。こっちからの説明は2回まで。3回目からは、聞かれなきゃ答えない」


それは営業部の決まりなのだろう。以前そのようなことを如月も言っていたことを凛は思い出していた。


桜庭は深々と頭を下げ、僅かに残っているフラペチーノを片手にその場を去った。凛はその背中を呆然と見つめた。









「あぁ俺余裕なし」


桜庭の背中が見えなくなると、麻耶は頭を抱えそう言った。


「そう?余裕に見えたけど」

「全然だから」


余裕はなくとも、本人にはそれを見せず先輩として発言する。


「さすが男子高出身」

「今、それ関係ある?」


フッと笑った麻耶を見て、凛は安心した。


「つーかそれ美味いの?さっきから桜庭からも凛からも甘い匂いがするんだけど」


麻耶は凛の前に置かれている、クリームがたっぷりと乗っかったメロンフラペチーノを指差した。


「うん、甘いけど美味しいよ。冷たくてさっぱりする」


飲んでみる?と、凛はそれを差し出した。麻耶はそれをひとくち飲むと、「間接キスだ」と笑う。


こうして社内で、並んでゆっくりと話すのはもしかしたら初めてのことかもしれない。しかも間接キスだなんてと、凛はまた頬を紅くする。


ごった返す店内の片隅。テーブルの下。麻耶はそっと、凛の手を握った。


「……この指って、紅差し指って言うんだって」


麻耶は凛の左手の薬指を撫でた。


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