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初花凛々
第44章 月前の星
現れたのは女将さんだった。


2人は慌てて離れるけれど、凛の紅潮した頬までは隠しきれず、凛は少し俯きながら座った。


















「おぉ!酒の種類が!」

「多いねっ」


さっきまでの甘いムードはどこへやら、2人は女将が置いていった土産の情報誌を見て歓喜の声をあげた。


「明日ビアホール行く?」

「もちろんです!」


今日ここへ来るまでに、凛は徹底的にリサーチした。どこどこのラーメンが美味しいとか、ソフトクリームはあそこ、とか。ビアホールももちろん。


そしてもうひとつの目当て。


山から望む夜景。


「夕飯のあと、旅館から函館山まで無料のシャトルバスが出るんだよ」


函館の夜景は日本三大夜景に入る。


そしてその夜景には、凛が大好きそうな、語り継がれる伝説があった。


「ハート?」

「うん。夜景の中にハートを見つけたら、良いことがあるみたい」

「良いことってアバウトだな」


麻耶と2人でこうして過ごせることが、凛にとって1番"良いこと"なのだけれど。と思いながら、凛はすぐ側にある麻耶の横顔を見つめた。


部屋の隅にある両開きの棚には旅館の浴衣がある。


それを着て、向かうのは大浴場。


いつもと身に纏う物が違うだけで、また新たな一面を発見したような気がしてくる。凛は旅館の名が入った手拭いをギュウと握りしめながら、麻耶の隣を歩いた。


「じゃああとでね」


紅い女湯の暖簾をくぐろうとした凛は振り返り、紺色の暖簾をくぐる麻耶の後ろ姿を見た。


やはり後ろ姿にも見惚れていた凛は、温泉に入る前から逆上せてしまいそうと思った。


大浴場にはたくさんの人がいた。


連休だからか家族連れが目立っていて、久しく行っていない和みの湯を思い出した。


_____ひまわりの笑顔の女の子は元気にしてるかな


______ここの旅館にはコーヒー牛乳売ってるかなぁ


思いながら、凛は浴衣の帯をゆるゆると解いた。




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