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初花凛々
第44章 月前の星
浴場に入ると、凛は目を奪われた。


一面に広がる景色に。


大きな窓に、大きな浴槽。見たことがないというくらい。


その窓からは海が広がり、空も海も、反射する浴槽の湯も全てが青だった。やはりここでも、白くて青い海だなと凛は思う。


そして先ほど部屋から眺めた海よりも、もっと大きく、もっと広く。


それには凛以外の客も目を奪われているようで、湯に浸かる人々は皆揃って海を眺めていた。


凛は今すぐにでも白青の湯に入りたい気持ちを抑えながら、まずは備え付けのシャワーで汗を流した。


肌に当たった湯はすぐに弾けて玉となり流れてゆく。


凛はいつも荷造りに余念がなく、今回も愛用のボディソープとシャンプーを小さめの容器に入れ替えて旅行バッグに詰め込んだ。それも、麻耶の分まで。


けれどそれを浴場に持ってくるのを忘れてしまった。麻耶へ渡すのも忘れてしまい、あぁ、と凛は項垂れつつ備え付けのシャンプーを見やった。


"椿オイル配合"


それを見て凛は椿を思い出した。


_____私たちが結婚すると知ったら、椿さんはどう思うのだろうか


椿オイルのシャンプーで思い出すなんて、単純すぎる思考回路、と思いながら、凛は髪を濡らし、シャンプーを湯で泡立てて髪に揉み込んでゆく。


大抵備え付けのものは手触りや香りが好みでないことが多いけれど、ここの物はそんな不快感なんかなかった。


シャンプーは凛の髪をより一層柔らかにしたし、ボディソープは肌をより滑らかにしてくれた。


いよいよ、凛は念願の湯へ向かい、そっと手を差し込んでみた。


入れた瞬間熱が伝わって、けれども優しい感触だった。


反射するから青白なだけで、ジッと見ると透明なその湯にそろそろと身を溶け込ませてゆく。


肩まで浸かると、あまりに気持ち良くて凛の口からは溜息が漏れる。


前まではこんな時、親父のような唸り声を出していた凛。


けれどいつからか、いつのまにか。


凛の口から漏れるのは。


凛は自分では、それに気付かない。


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