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初花凛々
第45章 君影草〜鈴蘭
ようやく露天風呂の湯船へ浸かったのは、それから大分経った頃。


湯船に浸かる前から、凛はほぼ逆上せているような気がした。


湯船は2人どころかその倍の人数が浸かれるくらいゆったりと広い。


けれども麻耶は後ろから凛を抱きしめるように、2人はくっついていた。


「あっ、麻耶見て!さっきまで私たちがいた所が見える!」


少々興奮気味に凛が指差すのは、先ほどまでいた西波止場のレンガ倉庫群。


ここからもライトアップされている様子が確認出来る。


「結構遠いと思ったけど、こうして見ると近く見えるな」

「そうだね」


見るものは全て美しく、口にするものは全て美味しくて


それはきっと、麻耶とだから。


凛はそう思った。


「……私ね」


レンガ倉庫群の灯りを見つめながら、凛は呟く。


「麻耶と見たもの、全てが綺麗だと思う。口にするものも、全部美味しくて。……特別って、こういうことを言うのかなーって、思う」


何もかもが初めての凛だけれど、特別とはどういうものなのか。好きとはどういうものなのか。わかったような気がした。


「うまく言えないけど、例え麻耶と別行動してて、綺麗なものを見たとするじゃない?そうしたら私、それを麻耶に見せたいってきっと思う」


凛の気持ちを受けて、麻耶は長い沈黙のあと、「そっか」とぽつりと呟いた。


麻耶もまた、同じ。


綺麗な景色を凛に見せたいと思う。


美味しいものは凛にも食べさせたいと思う。


だから出張のときは、見せたい景色は写メに撮ったし、土産だって悩んで選んだ。


一緒に感じて、味わって。


「そんな夫婦になっていきたいね」


言い終わるかどうかというところで、重なるのは、唇。


「……麻耶」


口付けの合間に絡み合う視線。


凛は麻耶の瞳が潤んでいることに気が付いた。


「やべ、逆上せたかも」

「え!大丈夫?もう出よっか?」

「凛にね」


そんなキザな台詞を吐く麻耶に凛は笑う。


麻耶と同じように、瞳を潤ませながら。

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