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初花凛々
第9章 金魚草
桜もとうに散って、新緑が芽吹く。


雨上がりの雫が、太陽に反射していた。それはまるで宝石のように輝いていた。


二年以上も片想いをしている相手と、雨上がりのこんな素敵な日に二人きり。


弾む胸。けれども凛はそれ以上に緊張の方が大きく、相変わらずうまく話せないまま時間だけが流れる。


いい天気だね、とか。今日の夕飯はなに?とか。間を繋ぐ会話さえ出来ずに。



「……あのさ」


先に沈黙を破ったのは圭吾の方。


「なっ、なに……?」


凛は高鳴る鼓動が苦しく、小さな声で言った。


「えっと……」


これから一体なにを言われるのだろう。俯きながら、照れているようにも見える圭吾。
それを見て、凛はやはり、次の言葉に期待した。


「……俺、雫のこと好きなんだよね……」


けれど圭吾の口から出たのは、予想も期待も裏切るものだった。


凛は恥ずかしくなった。


「そっか……応援するよ」


雫は、とても魅力的な女の子。


こんなつまらない自分とも仲良くしてくれる、気立てのいい子。


「……で、さ。凛に聞きたいことがあって……」


圭吾は更に言いにくそうに、雫の恋愛遍歴を聞いてきた。


「ざっくばらんに言えば、どこまでやってんの?」


雫は既に、中学で様々な経験済みだと凛は聞いていたけれど。それを凛から伝える気にはなれなくて。


「……そこは、雫から聞いた方が……」

「だよね。……でも、凛がそんなに濁すってことは……」


圭吾は、噂でも聞いて知っているみたいだった。それでなくても雫は割と男子にモテていたから、当然だよな、と。


「でも、いいんだ」

「えっ?」


それまで眉間に皺を寄せるようにしていた圭吾は、急に顔を上げそう言った。


「経験あるほうが、何かとスムーズだし。俺も初めてじゃないしね」


凛はこの日、たくさんのことを知った。


圭吾が雫を好きだということ。


経験のない子は苦手だということ。


圭吾は経験済みだったということ。


_____そして


凛の淡い期待は、なんの根拠もない、ただの勘違いだったということ_____。
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