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初花凛々
第10章 雲の峰
_____麻耶は、考え込んでいた。


部屋には凛がシャワーを浴びる音と、カレーの匂いで満たされている。



麻耶は西嶋のことがあってから、なんとか凛を元気付けようと日々悩んでいた。それで思いついたのが今回のカレー。



それに、先程凛が泣いているのは明らかだった。その理由さえも気付いてしまっている麻耶は、自分に何か出来ることはないかと考えていた。


何を食べても美味しいと笑い、何があっても優しく微笑んでいる凛。

そんな凛のことを、少しでも励ますには、こんなカレーなんかじゃどうにもならないということに、麻耶は再び頭を抱えてしまう。





「わぁ、美味しそう!」


シャワーを終えた凛には、いつもの笑顔が戻っている。それを見て麻耶も、少しだけ胸を撫で下ろした。


「美味しい!わ、玉ねぎが甘い!」


いちいち感想を述べる凛に麻耶は笑って、先ほど購入したゆず梅酒"凛"を取り出した。


「麻耶……?」

「こうして、飲も」


麻耶はソファに寄っ掛かり、脚の間に凛を抱きかかえるように座る。それはあの日のプールサイドを思わせる仕草。


「……凛」


麻耶はまた、凛の耳元で囁いた。


「……っていう酒もあるんだね」


凛は麻耶に名前を呼ばれたのかと思い、子宮の上辺りが痛んだ。しかし麻耶が呼んだのは酒の名前。


麻耶の言動にいちいち敏感な反応を見せる凛。


数多くの女を相手にしてきた麻耶だけれど、こんなに清楚で無垢な子には初めて出会ったと麻耶は思った。


それは凛の自慢すべきところなのだが、当の本人には、今やコンプレックスでしかない。
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