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初花凛々
第10章 雲の峰
梅の甘酸っぱい味が舌を刺激して、ゆずの香りが鼻から抜けてゆく。


いかにも女の子らしいそのお酒を口にして、凛は酒のせいか頬を赤らめた。


「どう?」

「美味しいよ」


凛が手にしていたゆず梅酒を八分目まで注いだカップに麻耶が口付ける。


別に凛に口付けたわけでもないのに、その光景を見て凛は脈拍が速くなってしまった。


_____よく見ると、麻耶って睫毛が長い。


間近で見る麻耶は、男性だけど綺麗、と凛は思った。


その視線に気付いた麻耶が、ゆずと梅の香りをさせながら微笑む。


「……凛、俺に何か、出来ることはない?」


誤魔化しきれていない凛の涙のあとの瞳。それを至近距離で確認した麻耶は、思わずそう口走る。麻耶らしくもないその台詞、行動。それには凛だけではなく、麻耶自身も驚いている。


「出来ること……?」


凛は麻耶の言っていることに、ピンとこない。


_____涙も完璧に隠したし、西嶋さんのことも、あれからなにも言っていないのに。


そう思いながらも、凛は麻耶には隠せないだろうと思った。いつも先回りして読んでくれる麻耶が、凛の心の内に秘めたるものに気付かないはずがない。


「あのね……」


凛は恐る恐る、けれども躊躇せずに伝えようと思った。


「うん。俺、凛が元気になるなら、なんだってするよ」


麻耶もまた、そんな凛のことを受け止めようとする。


いつのまにか、音も立てず静かに。


二人の間には、確固たる友情が芽生えていた。



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