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初花凛々
第10章 雲の峰
_____なんて優しい瞳をするの……。


凛は、すぐそこにある麻耶の瞳に見入ってしまっていた。


そしてひとつ息を吸い、言葉を紡ぐ。


「……他の人はどうして、両想いになれるのかな……、私ってどこか足りないのかなぁ……」


凛はずっと心の奥底にあった本音を、少しずつ言葉にする。


父親は兄だけを見ていた。母親は凛のことを可愛がってくれてはいたが、いつも父親の顔色を伺ってばかりいた。


凛の好きになる人には、必ず他の誰かがいて。


だから自分には人に愛されるための何か、その何かはわからないけど、欠落しているのかと凛は不安だった。


誰しもが経験している恋愛。デートをしたり、語り合ったり、キスをしたり。そんなものにまるで縁のなかった凛。それは自分に何か問題があるのではないかと……不安だった。


そんな長年降り積もった胸の内を晒すのは怖かった。けれど凛とは対象に様々な経験をしているであろう麻耶なら、解決の糸口を見つけてくれるのではないか。凛はそう思った。


「……。」


そこからは、長い沈黙が続いた。麻耶は不安げな凛の瞳を見た。


酒の入ったカップをテーブルに置き、座り直す。


凛のお腹に回された腕に力を入れ、


「凛」


と、麻耶は凛の耳元で囁く。


今度は酒の名ではなく、凛の名前を。


凛はそれに気付き、子宮の上がまた、ズンッと痛んだ。

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