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初花凛々
第10章 雲の峰
「くるちゃん先輩!今夜はあいていますか?」


仕事が終わる18時。新山が凛の元へとやってきた。


「どうしたの?」

「飲みに行きませんか?行きたいお店があるんですよー」


実のところ、今日は飲みに行く気分ではなかった。むしろ、早く帰宅して一人になりたかった。


如月に投げつけられた言葉は刃のように、凛の心をズタズタに切り裂いていたから。


「うん、いいよ。行こっか」

「やったぁ〜!」


凛が行くと返事をすれば、新山の顔は甘いキャンディのように弾ける笑顔になる。
それを見た凛も、なんとか元気にならなくちゃ、と思った。






「えっ……なにこの店」

「可愛くないですか?」

「可愛すぎる!」


通勤で使う路線の最寄駅の地下街に、それはあった。


"不思議の国のアリス"をテーマにしたレストランは、OLで賑わっていた。新山と凛も例に漏れず、可愛いとキャッキャしながら中へと入った。


ピンクパールを散りばめたシャンデリアや、トランプの兵隊をモチーフとしたステンドグラスが、店内を煌びやかに飾っている。


「こちらの席へどうぞ」


と案内をする店員の首からは、懐中時計がかけられている。



「……ふふ」

「ん?」


はしゃぐ凛を見て、新山が笑う。


「……よかった」


新山はほぼ無意識にそう呟いた。


それを聞いて凛は、あぁ、と気付いた。


今日の出来事を新山は知っていて、それで元気付けるために凛をこうして連れ出してくれたのだ、と。
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