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はじめの一歩
第6章 Piece of memory Ⅱ ー記憶の欠片 ー
忙しい日常に紛れ、そんなコがいたこともとうに忘れたある日、またバスに乗ると、あの時のコがそばに居た。今日は俺の斜め前。
いつものように俺は両手を挙げてて。
顔を見てもすぐには思い出さなかったのだけど、また、そのコの肩がびくりと震え、俺の身体に少し触れる。それでそのコのことを見た。眉間に皺が寄ってて。
その顔を見て初めて思い出した。

痴漢、だよな、やっぱり。

そうは思っても、声を掛ける勇気がなくて。
それは、冤罪であっても、痴漢されたと訴えられればほぼ起訴される、という話も聞いたから。
警察の執拗な尋問から逃れる為に罪を認めるような供述を促され、一度認めれば社会的立場も失うのに、認めざるを得ないような気になって、認めてしまう。
そうして、冤罪は容易に成立するのに、無実である事を証明するのはものすごく難しい、と聞いた。

明日は我が身。
下手に関わるのは得策じゃない。
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