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はじめの一歩
第6章 Piece of memory Ⅱ ー記憶の欠片 ー
もし、これが人違いだったら。
名誉毀損で訴えられても仕方ないことだ。
だけど、その時の俺は、そんなところまで頭が回っていなかった。

何かわからない、限界を超えてしまって、頭に血が上って。
普段なら言えないような強気な発言をした。だけど、何を言ったのか、実はよく覚えてない。
後から聞いて、そんなこと言ったのか、と我ながら驚いた。

とにかくこの時、俺は、痴漢の手を掴んだまま、周囲に痴漢だと言ってバスを止めさせ、一緒にバスを降りた。

バスが路肩に停まり、出口に向かう時。
まるでモーセの前で海が割れるように、すし詰めのはずの車内に、細い通路ができた。
その光景だけは、やけに鮮明に、脳裏に焼き付いている。
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