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はじめの一歩
第6章 Piece of memory Ⅱ ー記憶の欠片 ー
何か喋ろうとしたら、口元が震えて。
言葉の代わりに出たのは、涙だった。

「俺…何度も君が痴漢に遭ってるの…見てた…知ってのに、意気地がなくて、中々声掛けられなくて…」

「そんな!深谷さんのせいじゃないです!」

「…ゴメン…ゴメンね…俺が、もっと早くにこうしてれば、嫌な思いが続くこともなかったかもしれないのに…怖かったよ、ね…本当は、もっと早くにこうするべきだった…」

目の前に、可愛らしいハンカチが差し出される。

「自分を、そんな風に責めないでください。今日、深谷さんが助けてくれなかったら、私はずっと痴漢に遭ってたかもしれない。今までだって、近くにいたのは深谷さんだけじゃない。たくさんの人が居ました。でも、今までも誰も助けてくれなかった。今日だって、深谷さんの他に、気付いてくれた人は居なかった…私…嫌で嫌で仕方なかったのに、どうしても声出せなくて…だから、本当に、深谷さんは、悪くないです。あの時、携帯見せて聞いてくれた時、本当に、本当に安心したんです…!」
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