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はじめの一歩
第1章 Butterfly
3月13日。

帰りは大荷物になるから車で出勤する。

途中で市川くんの店に出向き、リングと折り畳んだメッセージカードを渡した。
クッキーに忍ばせるメッセージだから、長々としたものは書けない。
中身は1行。

『一ノ瀬由美子様 貴女の荷物を僕にも持たせて貰えませんか? 武井 誠』

他の人間が見ても、大した意味は持たないだろうこの言葉。
だが、彼女には解るだろう。
名乗ってもいない自分の本名を、僕が知っていること。
それは、君の境遇を知っているよ、という暗喩。
彼女が抱え込んで手放せないでいる、大きな荷物は、彼女の家族だ。

本来なら、当時未成年だった彼女に、親を養う義務はなかった。そこを水商売をしてまで養う決心をした。それは…それだけ彼女にとって家族が大切だということ。
今は売れっ子だからそれなりに稼いているだろうし、弟だって幾つか知らないが、そのうち就職して自活くらいできるようにはなるだろう。それでも新卒で就職したての若者に一家の大黒柱という重責をすぐにタッチ交代できるとは思えないし、何より彼女の性格からしてそんなことは期待していないと思う。出来る限り、自分独りで支えるつもりでいるのだろう。
でも、所詮は水商売。流れものとはよく言ったもので、この先何十年も彼女の収入が、保証されるわけでもない。

…だから、僕を利用して。
僕なら、君の肩を軽くしてあげられる。

君の大切なものを、守るだけの経済力が僕にはある。

彼女なら、この1行の文章に込められた、僕の想いを汲み取れるはずだ。

大切なものを含めた、君の人生を、丸ごと抱え込んでみせる。
それが…僕のプロポーズ。
僕が本気だと、きっと彼女なら、わかってくれる。







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