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 その腕で壊して 
第1章  
「嫌いになったとかじゃなくて!そうじゃなくて、ダレが山岸さんをこんなふうにしたんだろうって気になって仕方なくて、なんつうか・・・あぁ、勘繰ってんのかな?ダサイよな、自分から付き合ってくださいって告白したのにさ、オレ」



 ホテルのようなエレベーターホールからエレベーターに乗り込み、1階エントランスで下りる。
 「ここでいいよ」と言った私の手を新井くんが強引に引っ張って歩く。

「何言ってんだよ、こんな時間まで引き止めたのオレだし。家まで送る」

 新井くんの顔はちょっと怒ってた。
 大事にされるって、こういうことなのだろうか?
 心の中で首を傾げながら、私は新井くんに向かって笑みを浮べ、首を左右に振った。
 

「ありがとう。でもほんとにいい。たぶん、家族がそこらへんで私のこと探してると思うから。途中どっかで会えると思うし」


 マンションの敷地からあと一歩出れば外、というところで私は立ち止まった。
 急に立ち止まったせいで、新井くんに引かれていた右腕がぐんと前方に伸びる。
 新井くんは不安げな顔で私を見つめていた。


「え・・・探してるって、もしかして親、山岸さんの帰りが遅いから怒ってる?」
「たぶん」
「ならオレ、謝らなきゃ」
「いいよ。いつものことだから」
 

 丸い顔に、丸く見開いた目。
 その顔が豆鉄砲食らったハトみたいで、思わず笑ってしまった。
 私の知らない純真さが、新鮮。



「いつもって・・・?」
「夜はよく出歩くから」
「え・・・?」
「家嫌いだから」
「嫌いって・・・」
「俗に言う深夜徘徊。案外不良なんだよ?私」
「・・・・・」
「新井くんって、素直な人だね」


 そーゆうとこ、好き。
 言いながらさほど高さの変わらない唇にキスをして、ほどけた手を振った。
 湿った手のひらに夜風が冷たかった。
 もうすぐ冬がくるのだろう。



「・・・またしようね、エッチなこと。誰にも内緒で」



 
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