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 その腕で壊して 
第1章  
 明るく手を振る私を呆然と見送る新井くんが身に着けていた薄手のジャージは、股間のとこが大きく膨らんでた。



 私が帰ってから寝る前にオナニーしたいと考えているのと同じように、新井くんも寝る前にオナニーするのだろうか。
 新井くんは、消えてなくなりたいと思いながらオナニーしたことがあるだろうか。
 自分の存在を消し去りたいと思いながら、自分の身体を気持ちよくさせたことが。



 そんなことを考えながら電源の切れたケータイをブレザーのポケットの中でいじりながら夜道を歩く。
 さっきまで新井くんが入ってた場所がまだ熱い。



 2ヶ月ぶりのエッチだった。
 まだ身体の芯が燃えてる。
 早く自分を触りたい。
 早く、自分を忘れたい。
 いや、違う。
 本当は忘れさせて欲しいのかも知れない。
 新井くんの前に付き合ってた男に、めちゃくちゃにされるかたちで。





 垂れ出た精液と愛液でぐしょぐしょに濡れた下着を無視してわざと遠回りする。
 駅前のコンビニを通過。
 坂道を上れば、てっぺん過ぎて広がる住宅地でぽつんと、今時誰が使うのか、四角い電話ボックスが緑色の光を放っていた。

 ここからもうちょっと歩けば、公園がある。
 ブランコと滑り台と砂場があるだけの小さい公園が。
 愛されている私の予想が正しければ、きっと、いる。
 私を探す家族が、そこに。


 暗がりに街灯が見える。
 枯葉の間から夜空に黄色い光を放っている。
 口を開くと、白い息が舞い上がって消えた。
 ブランコの赤い塗装がやけにクリアに見えたのは、アンブロのロゴもまた同じように赤かったせいかも知れない。
 シャカシャカと生地の擦れる音が狭い公園内に響いている。
 ベンチの前に人影が見えた。
 きょろきょろ辺りをうろつきまわる、落ち着きのない、ジャージ上下に身を包んだ、大きな人影が。
 


「おにいちゃぁん!」



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