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瞳で抱きしめて
第8章 対峙
「彼氏いるの?」
「彼氏…」
怒りから少し哀しげな表情に変わって湊斗は問う。
その問いを肯定することができずに、私は声を飲み込んだ。
光は彼氏ではない。
一昨日、光と身体を重ねた日。
何度も私に恋人になってと懇願した光の言葉に、私は遂に応えなかった。
引き続き恋人候補のまま、関係が続いていることになるのだろう。
このことを、うまく一言で説明するのは難しい。よりによって湊斗に。
「彼氏じゃないの?…こんなことしたの」
くっきりと印された痕に、湊斗の指が触れる。
一つ一つ確かめるように肌を撫でた。
「……っ……湊斗…」
「これ…すごく強くやられただろ。赤黒くなってる」
身体を引いて湊斗から離れ、首筋を掌で隠した。
「関係なくないからな」
ストールを直す私を見据えながら彼は告げた。
「言っただろ。懲りてないからって」
「…」
「覚えてる?」
私は微かに頷く。
忘れるわけない。
だからこそ、今日湊斗に再会した瞬間から、あの言葉の続きをいつ聞かされるのだろうかと悶々としていたのだから…
「2年離れて気持ちが変わるかもと思ったけど、変わらなかった」
「湊斗」
何となくその先を言わせてはいけない気がして、無駄だと分かっていたが遮った。
「まだ樹理が好きだ」
私の心を掻き乱すのには十分な一言。
「そいつが彼氏だったとしてもなかったとしても、どうでもいい。取り返すから」
それだけ言うと、湊斗はリビングへ戻っていった。
まるでたった今起こったことは錯覚か何かと思えるほどに、一瞬の出来事だった。
だけど
…錯覚じゃない。
湊斗の指が触れた首筋には、たしかに彼の爪の感触が残っていたのだから。