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瞳で抱きしめて
第6章 元カレ
「お前すごく女子から人気あるんだぞ。俺なんてしょっちゅう連絡先教えてとか言われるし。」
隆史はわざとらしく大きなため息をついてきた。
「お前それ勝手に教えるなよ」
「分かってるって」
実際、光も直接見知らぬ女子から連絡先を交換してほしいという申し出をされたことが何度かあった。
クラスメートなら仕方なく交換したが、顔と名前も一致しない女子は丁重に断っていた。
「お前女の子に興味ないの?…あ!もしかして、コッチ…?」
ふざける隆史は無視した。
時計を確認する。
今頃樹理さんは何をしているのだろう。
今日の散歩はまた閉店後に行くのだろうか。
「…もしかして光って彼女いるの?」
智也が訝しげに聞いてきた。
「まじ?!お前それなのに松井さんの誘いに乗るとか…!」
「いないよ」
短く答えて、不意に切なくなる。
樹理さんは俺をどう思っているのだろう。
抱き締めても抵抗されないし、キスも受け入れてくれている。
だけど、恋人候補から昇格する兆しはない。
おまけに元彼の存在。
今は日本にいないが、この夏に帰国するらしい。
「おい、どうした?」
突然黙りこんだ俺を智也が小突く。
「ちょっとややこしいんだよ」
「え?」
駅についた。数分後に発車だ。
「智也、悪いけど隆史も増えるってこと、松井さんに伝えといて」
それだけ言うと、俺は階段を駆け上った。