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瞳で抱きしめて
第1章 家出?
シャワーを浴びて出てきた光に、樹理は傷の手当てをしてあげた。



唇に絆創膏を貼って「はい」と済んだことを伝える。


「ありがとうございます」



「いえ、別に」



「……」


樹理は必要最低限のことしか口にしないのか。


普通の大人ならあれこれ聞いてきそうな質問を、樹理は一切してこなかった。


光が、家には帰りたくないと言ったときから。



「…」



「……」



店内にはラジオが流れているだけで、カウンターの内側と外側に斜向かいに座った二人はひたすら無言だった。


樹理はなにやら雑誌を読んでいるようだったが、光はただ無言で座っているだけだった。


そのうちその沈黙に耐えられなくなった光が口を開いた。



「あの、樹理さん…」



「なに?」



雑誌から顔を上げ、樹理は光に目線を移す。



「なんで、なにも聞かずに連れてきてくれたんですか」


「聞いたじゃない。家はどこ?って。でも帰りたくないんなら仕方ない」



「でも、普通は」



「連れてこないって?」



樹理は雑誌を閉じて少し遠くを見てなにかを考えているような表情をした。


すぐに答えが出たようで、光に目線を戻す。



「助けたくなった。だからかな」



「え?」



「捨て犬みたいだったから。」



「捨て犬…」



「光」


突然名前を呼ばれて光は驚いた。


しかし、次に樹理の発した言葉に更に驚くことになる。
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