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瞳で抱きしめて
第8章 対峙
「光。おかえり」


いつもの癖か、樹理さんはおかえりと口にすると、俺の切羽詰まったような顔を見て面食らっている。


「…なんですぐに教えてくれなかったの」



他のひとに聞こえないように、小声で文句を言う。

もちろん、湊斗の帰国を教えてくれなかったことについて。



「…だって一昨日は…言う暇もなかったし」



「…」



無意識にか、首筋を隠すストールに手を添えて微かに顔を赤くした彼女は言う。



「昨日は…店も忙しかったし、夜は町内会あったし、そもそも光は家に帰ってる日だったでしょ…」



「…うん」



確かにそれ以上文句は言えなかった。



ストールの隙間からは、真理さんの言うとおり確かに俺のつけた唇の印が微かに見えていた。


一昨日の夜の出来事が脳裏に甦って、胸が熱くなる。



俺の上で甘い鳴き声を上げ、口づけをねだった樹理さん…



今すぐ抱き締めてキスしたかった。



こんなに目の前に彼女がいるのだから…せめて触れたかった。


それができないのがもどかしい。


触れられない代わりに、俺は甘えるように大好きな人を見つめていた。
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