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瞳で抱きしめて
第8章 対峙
「ごめんごめん。つい、樹理が悪く言われるとついね。昔からの癖だね」
…昔からの癖。
…樹理さんが悪く言われるとつい。
少し前に真理さんから聞いた湊斗と樹理さんの過去についての話を思い出した。
『お姉ちゃんを守りたかったんだって』
『お姉ちゃんがいじめられる度に湊斗くん、いじめた本人にきつく当たってた』
おそらく、松井さんの樹理さんに対する悪意が、先ほどの湊斗の攻撃的な言動を起こさせたのだろう。
…湊斗は樹理さんのこと、本当にもう吹っ切れているのか?
俺のなかでモヤモヤした疑念が沸き起こる。
「ねえ、さっさと片付けちゃって皆でどっか食べいこうよ」
「そうだな。湊斗さん、久々の日本でしょう。何か食べたいものありますか?」
真理さんとの雄介さんの賑やかな話し声で、俺は現実に引き戻される。
樹理さんはてきぱきと段ボールの中身を仕分けし、湊斗はそれを部屋のなかに手際よく整理していた。
息のピッタリ合った二人の姿が面白くない。
樹理さんと湊斗は大して言葉を交わしているわけでも、会話に花を咲かせているわけでもないのに、二人の間に見えない絆のようなものがある気がして不愉快だった。