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アペリチーフをご馳走に。
第1章 アペリチーフをご馳走に。
目の前でちまちまとコーヒーをすする少女は、何分か前から少し落ち着き無くそわそわとしていた。

「──ん、と…ちょっとごめんなさい、お手洗い」

「んー」

少女は少し恥ずかしそうに立ち上がり、しかし自分は何も気にしていないように答える。

ただ薬が効いたかなと思いながら、戸が閉まったのを確認して少女の荷物の前にしゃがむ。



──その想いに何故、と問われても明確な答えは見付からなかった。

散々に使い古された言葉ほど真意で、「嫌いになるのに理由はあっても、好きになるのに理由はいらない」。

運命的という迸るような衝撃も無く、かといって何となく惹かれたという感傷的な情緒も無い。

敢えて言うなら本能的に感じて、というのが最も相応しいかもしれない。

誰に教わる訳でもない、生まれたばかりの亀が海に戻るように野生の鳥が食える実と食えない実を見分けるように。

──ただ人間という動物は、その本能を隠すことを強いられる。

理性やモラル、法律。そういう膜を透過して、彼女と自分が全く正反対の、けれども根は一つである人間であることを感じた。

だから彼女が欲しくて欲しくて、その膜をほんの少し爪で裂いた。

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