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アペリチーフをご馳走に。
第1章 アペリチーフをご馳走に。
翌朝。
いつもの制服姿でいつもの車両、いつもの場所に立っていた梨子は背後にその存在を感じてドキリと胸を高鳴らせた。
「──おはよう、梨子」
「……」
耳元で囁かれ、こくりと頷けば仁は微かに笑い──いつものように甘く梨子の体に牙を剥く。学校に着けば、更に濃厚で官能的な時間が梨子には待っていた。
アブノーマルから始まるノーマルな日常。しかしそれすら、仁に取ってはメインディッシュの前の食前酒に過ぎない。約束の卒業式まで、まだ先は長い。
ただその間も仁は教師の仕事を疎かにすることは無かったし、それを感じていた梨子も日々の生活は変わらず送った。テスト勉強もしたし部活にも通った。
ただ一つ変わったのは、
「──ねえ新谷せんせー、本当はどうなの?彼女いるの?」
「居るなら居るって言ってよー、誰にも言わないから!」
「──はあ、まったく…しょうがないなあ。…居るよ」
「…えっ…!?…」
「へ、ー…彼女、居るんだぁ」
「うん。彼女…っていうか恋人。もう何年かしたら、一緒になりたいなあって思ってる」
「……」
と新谷が公言してから少なからず彼を取り巻く女子が減ったことで。
高校を卒業するまでの残り時間、日常の中で時折悪戯そうに笑う仁と、自分だけが視線を交わすことが出来るのが──梨子には本当に幸せなことに思えたのだった。
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2016.2.12