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アペリチーフをご馳走に。
第1章 アペリチーフをご馳走に。
だけど、今はもうそれでいい気がした。見知らぬ痴漢でも見慣れた新谷先生でもない、仁という意地悪で優しい獣に寄り添い、じゃれるように甘く爪を、牙を立てられることがこの上無い幸せのように感じた。

そんなマゾヒスティックな感覚が、それでいい、この人でいいと梨子の中で頷く。

……もしかしたら自分が見知らぬ痴漢を受け入れ、新谷先生に惹かれていたのは──本能的に、仁を見付けていたからかもしれない。

互いにあの理性やモラルの塊ような眼鏡を透過して、愛情も欲望も満たせる最高のパートナーを見付けていた。ただそれがたまたま教師と生徒だった。

もしかしたらそれを責める人間もいるかもしれない。

だけど、そんな人には思い出して欲しいと思った。自身が素晴らしい恋に落ちて、結ばれた日のことを。

だけど、そんな人にはもっともっと素敵な恋をして欲しいと思った。もう出会っているかもしれない、まだ知らない人かもしれない、この人しか居ないと本能が求める相手と。

そうしたら、自分たちを責められる人間はそうは居ないはずだ。


梨子は漠然とそんなことを感じながら、時が許す限り…今度は自分から求めて、その身を仁に委ねた。


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