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3つのジムノペディ
第3章   レント(ゆっくり)で、いたましげに




こういう形をとった性交が往々にしてそうであるのかどうかはわからないけれど、その行為は徐々にエスカレートして行った。
ペニスを喉の奥まで強引に差し込み、嗚咽するまで抜かずにいる。椅子に両手足を縛って恥部に“お道具”をあてがい、長い時間そのままでいさせる。

そんないささか常軌を逸した行為の中で、ぼくは目に見えぬ男の存在を感じていた。
彼女の身体と精神に、こんな風に疵(きず)を残した男。決して癒えることのない疵をつけて、無責任にも彼女から去った男。
ぼくは一度たりとも、その男のことを口にしたことはなかった。
それはきっと、嫉妬であり、自信のなさが故だったのだろう。

行為がエスカレートすればするほど、快楽の度合いは強まったけれど、同時にその見えない男の影にぼくは苦しめられることになった。あるいは、その男が彼女の身体に仕掛けたトラップに、自分自身が絡められてゆく感じがした。

行為が進む時、ぼくとぼくのペニスは、どこかで乖離(かいり)してゆく気がしていた。
ぼくの性欲が、ぼくの戸惑いを置いて先に進んでいくように。おいちょっとまてよ、それはぼくの勃起じゃない。見知らぬ誰かの勃起なんだよ。
スパンキングに感じていく彼女の尻を眺めながら、そんな風にぼくは思っていた。

どうすればいい?
どうすれば?

繰り返す打擲(ちょうやく)のなかで、ぼくの自問自答は重ねられた。
そして彼女から離れること、というシンプルな回答が自分の中で芽生えた。

彼女はフィアンセを持ちつつも、充たされない欲求をぼくというパートナーに求めていた。
しかし恐らくそれは、他の誰かが充たすべきものだ。彼女によりふさわしい誰かが。
さもなくば、見知らぬその男が与えた傷を、一生かけて癒し、もっと別の形の性愛を彼女に教えるべき男がいるはずだ。
―――それはすくなくとも、このぼくではない。

ぼくではないはずだ。

別れを切り出したとき、彼女は悲しげにうなずいて、恥ずかしげに小さな声で言った。
「最後にもう一度だけ、抱いてください」

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