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鏡よ鏡
第1章 *****
姫の脳内は、

隣国の王子の姿……

栗色の癖っ毛にグレーがかった瞳、
引き締まった頬と顎。
剣を常時背中に携えた男らしさ―――………
そして姫を呼ぶ落ち着いた甘い声で埋め尽くされている。




姫は座ったまま腰を捩り、悶えた。

(ああ……王子!
姫はあなた様のものになりますわ………)







夕闇が辺りを支配した頃、姫一行は隣国の古城にたどり着く。

湖のほとりに佇む煉瓦造りの古城。



数千もの兵士が声を挙げ、『姫さま!』
『姫さま、ようこそ!』

『未来の妃がおいでになったぞ!』


と蟻のように集(たか)っている。


姫は口端を上げ、
幾層にも重なったドレスの裾を持ち上げて馬車から降りた。

辺りがシーン…と静まりかえる。

蟻群衆が機敏な動きで二手に分かれ、
モーセさながら海を割ったかのように…合間から王子が歩を進めた。

姫の前に片膝を着いて、
『姫さま。
ようこそいらっしゃいました』
と丁寧に辞儀した。


(ああ、
王子………!!
長身の躯をそんなに曲げ、わたくしを迎えてくださるのね)
姫は逸る気持ちを抑えつつ、
ドレスの裾を両手で持ち腰を軽く下げて一礼した。


『お招きいただきありがとうございます』

にっこりと微笑むと、
群衆はその美しさに息を呑む。
王子も頬を染めて右手を差し出した。




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