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口琴
第3章 鬼ヶ島の舘
敬介は、少々バツの悪そうな面持ちで、やり場を無くした拳をゆっくりと下ろした。

「中條社長…。申し訳ありません。つい…」

「ハッハッハ…。まぁ、君の気持ちも分からんでもないがね。それより、待ちくたびれたよ。早くしてくれんかね?」

「はっ。申し訳ありません。今すぐに!」

敬介が、梨絵に目配せして、蕾の支度を促す。

「…蕾ちゃん…ごめんね…」

梨絵は、自分の不甲斐なさを悔いながら、蕾を着替えさせようと、子ども部屋へ連れて行こうとした時、中條が突然制した。

「奥さん、その必要はないよ…。制服のままって言うのも可愛いじゃないか…。ンフフッ…。
蕾ちゃんの制服姿…中々萌えるねぇ…。今夜はこのまま愉しませてもらうよ…。いいかな?佐山君?」

「…へ…へへへッ…。勿論ですとも。社長!社長も中々お好きですなぁ…へへへッ」

時代劇の悪代官と悪徳商人のような、ひく程に滑稽なやり取りを交わした男達は、母親の腕の中で涙する少女を、無理矢理引き離した。

玄関に黒塗りのセダンが停まる。

運転席から、白髪混じりの初老の男が、きちんとした黒いスーツ姿で降りてきた。

「お坊っちゃま、お迎えに上がりました」

初老の男は、中條を「お坊っちゃま」と呼び、後部席のドアを開けてエスコートする。

中條は無言で後部座席に乗り込んだ。

敬介は、嫌がる蕾を抱きかかえ、初老男が開けてくれた中條とは逆側の後部席へと押し込んだ。

「いいか?蕾、社長にくれぐれも失礼の無いようにな!
ちゃんと言うことを聞いて、たっぷりと可愛いがって頂くんだ!いいな!」

啜り泣く娘に、父親とも思えぬ鬼の形相で、非情な命令をしたかと思うと、すぐに媚びるように目尻を下げ、中條に対しペコペコと頭を下げる。

その様はまるで、馬鹿なニワトリのようだと蕾は思った。

「では社長、たっぷりとお楽しみ下さいませ」

ニワトリは、更に手揉みしながら、ニヤニヤとして諂うも、当の中條は無表情で、正面を見据えたままニワトリを無視し、無言で新しいタバコに火をつける。

初老男は、すぐにドアを閉め、運転席へと戻った。

中條は、一度も敬介に目をくれてやることはなく、初老男に顎をしゃくって発進の命令をすると、ペコペコと頭を下げる敬介を尻目に、土埃を巻き上げて立ち去った。

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