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口琴
第6章 初恋
「お兄ちゃん!」

そこに立っていたのは、背の高いあの少年。

「…歌…上手いのな…」

「良かった!会いたかったの。とっても!」

蕾は頬を染め、翡翠色の瞳を輝かせて、少年に駆け寄った。

「べ、別にお前に会いたくて来た訳じゃねぇし…。お、俺はただハーモニカを吹きに来ただけで…」

緑の瞳で真っ直ぐに見つめられた少年は、耳を赤く染め、言葉に詰まりながら言い訳した。

「何だっていいの!お兄ちゃんに会えたんだもん。私、嬉しい!」

「お、お前恥ずかしくないの?よくそんな事平気で…」

「だって、ほんとの事だよ?ねぇ、ハーモニカ聴いてもいい?お願い!」

「…泣いてたのか?」

蕾の涙の痕に、怪訝そうに訊ねる。

「それに、制服…。もう夏休みだろ?学校に呼び出しでも喰らったのか?」

「…そんなんじゃないよ…。いいの…何でもない。平気だよ?お兄ちゃんに会えたんだもん。元気になったよ?」

蕾の言葉は時折、少年の胸に甘く響く…。

少年は、蕾の顔をまともに見ることができなかった。

それでも平静を装い、木陰の下に腰を下ろす。

それから、ポケットからハーモニカを取り出すと、何も言わず、あの曲を吹き始めた…。

美しいワルツ…繊細な旋律…。

蕾は少年の隣に座り、凛とした少年の横顔を見つめながら、心に沁みる音色に酔いしれた。

パチパチパチ!

「凄い!やっぱり素敵!」

「や、やめろよ…。恥ずかしいじゃんか…」

「だって、ほんとに素敵だよ?私、お兄ちゃんのハーモニカ大好き!」

「す、素敵なんかじゃねぇし…。でも…ありがとう。嬉しいよ…」

少年は少し俯いて、照れ臭そうに呟いた。

「そ、それより、この曲にあんな歌詞があったなんて知らなかったよ。いい詞だな。それに…綺麗な歌声…あっ…いや…その…」

「本当に?ありがとう!…あの歌はママが昔よく歌ってくれたの。パパとの想い出の曲なんだって。でも、今はもう歌ってくれない…。って言うか…歌っちゃダメって言うか…」

「へぇ…そうなんだ。俺もこの曲は、親父に教えて貰ったようなもんなんだ。正確には、親父の棄てたゴミの中から楽譜を拾ったんだけど…。今の母さんが、この曲が嫌いみたいで…。だからいつもここで吹いてるって訳」

「うちとよく似てる…。今のパパが嫌いなの、この曲…。ママが前のパパを思い出してるんだって言うの…」
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