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口琴
第11章 知られざる過去
「ねえ、聖君はどうしてハーモニカを?パパやママみたいにピアノとかチェロとかやらなかったの?」

「俺も、小さい頃はピアノやヴァイオリンを習ってたんだけど、なんか合わなくて…。ハーモニカはお爺ちゃんに買って貰ったんだ。」

「お爺ちゃんに?」

「あぁ、俺の今の母さんのお父さん。もう亡くなっちゃったけどな」

「ふぅ~ん」

「うちの両親、再婚だろ?俺は親父の連れ子だし、お爺ちゃんは、初め猛反対だったらしい。それを押しきって再婚したんだ。

でも、何年か絶って、やっと許して貰ったんだ。

その時、お爺ちゃんは、まだ小三の俺を連れて楽器店に行った。『家族になった証に買ってやる』って。

ギターやトランペットとかあったから、何をねだろうか、どうせならかっこいいのをって迷ってたら、ハーモニカの棚の前で『好きなの選べ』って言うんだ。

正直、俺は『は?』って思った。」

「どうしてハーモニカなの?」

「俺も同じ事を聞いたんだ。ハーモニカじゃなきゃいけないのか?って。そしたら、お爺ちゃんはこう言ったんだ。

『ハーモニカってぇのは、孤独な楽器だ』って。

俺は『こどく?』って聞き返した。そしたら…

『ハーモニカは吹奏楽器だが、吹奏楽のコンサートで見かけるか?ましてやオーケストラではもっと見ない。他の楽器とはあまりツルまない、一匹オオカミみたいなもんだ。

でもな、ハーモニカは孤独なヤツの心が解るんだ。いい音色で語りかけてくれる。お前もこのハーモニカみたいに、孤独な人の心に寄り添える人間になりなさい』って。

俺はガキだったけど、お爺ちゃんの言っている意味が、何となく分かった気がした。

それから、お爺ちゃんは、その楽器店の中でも一番高いのを買ってくれたんだ」

「…素敵…」

「また、"素敵"って言った」

「だって、ほんとだもん。それに、お爺ちゃんの言った通りよ?だって私、聖君のハーモニカ聞いてたら、この辺が温かくなるの。私、聖君のハーモニカ、だあい好き!」

蕾は、両手で胸を押さえた。

「…チッ…俺よりハーモニカのが好きなのか…ま、いっか…」

「ウフッ」

「よし、元気になってきたな。吹くから歌えよ」

「うん!」


聖の奏でる美しいメロディーと、蕾の柔らかく透き通る歌声が、家中に広がる。

このまま、時を止めて欲しい…。


ガチャ!

「ただいまぁ。聖?」
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