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口琴
第12章 惜別の涙
蕾がここで、その短すぎる命を終わらせようとしていたのは、つい昨日の事。
何事も無かったかのように、いつもと変わらぬせせらぎを奏でる川は、優しくも、冷酷にも見えた。
蕾は虚ろに川面を見つめていたが、そっと目を閉じ、耳を澄ました。
「…パパの声…聞こえない…」
川風が、蕾の長い髪を鋤く…。それはまるで、亡き父の優しい指のように…。
聖は、ポケットからハーモニカを取り出すと、唇を充てた。
いつもの曲…。美しい調…。
その小さな楽器は、哀しみに暮れる少女を勇気づけようと、力強く、優しく歌う。
いつもならば、この音色に励まされ、元気を取り戻す蕾だが…。
…心に響く音色は、いつもとは違っていた…。
それは、蕾の中の"決意"がそうさせた。
それは…そう、『ハーモニカが聴きたい』と言ったあの時から決めていた。
決して忘れまい…と、心に刻む。
深く刻み込む程に、悲しく響く音色…。
蕾の長い睫は溢れるものを抱え切れず、次々と頬を濡らす。
すると…
聖の唇が止まった。
「……もう…パパの声なんか探すな…。俺のハーモニカだけ聴いてろ…」
聖は川を見つめたまま、低く呟く。
蕾は、聖の胸に嗚咽しながら飛び込んだ。
バランスを失った二人は草の上に崩れ、手放しで泣き続ける蕾を聖は優しく、強く抱き締めた。
蕾は泣いた…。
涙が枯れるくらい…。
やがて、ゆっくりと聖の胸から顔を上げた蕾の小さな唇が、震えながら開く。
"決意"を告げる為に…。
涙で潤んだ美しい翡翠が、聖を見つめた。
「…ヒック……聖君…ヒック…今までほんとにありがとう…。聖君の事…忘れない…。…大好きだったよ?……さ…さよ…なら……」
『…さよなら…』
蕾の口から絞り出された"決意"は、血を吐くより辛い言葉だった。
何事も無かったかのように、いつもと変わらぬせせらぎを奏でる川は、優しくも、冷酷にも見えた。
蕾は虚ろに川面を見つめていたが、そっと目を閉じ、耳を澄ました。
「…パパの声…聞こえない…」
川風が、蕾の長い髪を鋤く…。それはまるで、亡き父の優しい指のように…。
聖は、ポケットからハーモニカを取り出すと、唇を充てた。
いつもの曲…。美しい調…。
その小さな楽器は、哀しみに暮れる少女を勇気づけようと、力強く、優しく歌う。
いつもならば、この音色に励まされ、元気を取り戻す蕾だが…。
…心に響く音色は、いつもとは違っていた…。
それは、蕾の中の"決意"がそうさせた。
それは…そう、『ハーモニカが聴きたい』と言ったあの時から決めていた。
決して忘れまい…と、心に刻む。
深く刻み込む程に、悲しく響く音色…。
蕾の長い睫は溢れるものを抱え切れず、次々と頬を濡らす。
すると…
聖の唇が止まった。
「……もう…パパの声なんか探すな…。俺のハーモニカだけ聴いてろ…」
聖は川を見つめたまま、低く呟く。
蕾は、聖の胸に嗚咽しながら飛び込んだ。
バランスを失った二人は草の上に崩れ、手放しで泣き続ける蕾を聖は優しく、強く抱き締めた。
蕾は泣いた…。
涙が枯れるくらい…。
やがて、ゆっくりと聖の胸から顔を上げた蕾の小さな唇が、震えながら開く。
"決意"を告げる為に…。
涙で潤んだ美しい翡翠が、聖を見つめた。
「…ヒック……聖君…ヒック…今までほんとにありがとう…。聖君の事…忘れない…。…大好きだったよ?……さ…さよ…なら……」
『…さよなら…』
蕾の口から絞り出された"決意"は、血を吐くより辛い言葉だった。