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口琴
第12章 惜別の涙
予想だにしない蕾の言葉に、聖の呼吸が一瞬止まった。

何故…。

何分もの沈黙が、二人の間を過ぎる。

「…それ、本気で言ってんのか?…」

聖の声は、弱々しく掠れていた。

「……」

蕾は無言のまま項垂れるようにコクリと頷く。

聖は自分の無力さを見透かされた気がして、半ば開き直りのような、怒りのような声で蕾に詰め寄った。

「…やっぱ…俺みたいな半端なガキじゃ頼りねぇよな?!そうだろ?!」

「ううん、ちがっ…」

「じゃあ、どうして!」

蕾の言葉の終わりを待たず、攻め立てる。怒りは自分の無力さ故のもの。咎めるべき相手は自分自身の筈で、蕾に牙を向けるのは理不尽だと分かっていながらも、歯止めが効かない。

「…ごめんね聖君…。私、聖君が助けてくれた時、生きてて良かったって思った。ずっと聖君のそばにいられたらって思ったの…。でも、これ以上私がそばにいたら、聖君にいっぱい迷惑かけちゃう…」

「…なんだよそれ…誰が迷惑だなんて言った?迷惑なんかじゃねぇし!俺がお前を守るって決めたんだ!本気で。俺…お前が酷い事されるのなんて、耐えれねぇよ。帰ったりしたら、お前、売られちゃうんだぞ?もう…俺達…逢えなくなる。それでもいいのか?」

「…やだよ…でも…」

「だったらっ!」

「…ううん…聖君に迷惑かけちゃうだけじゃないの…。家でママが心配してる…きっと…。私が帰んないと、ママや梓が酷い事されちゃう…だから…助けなきゃ…」

「…蕾…そんなの…だめだ。…どうしたら…。俺がお前んちの親に言ってやるよ!酷いことすんなって!子供を売るなんて極悪犯罪だって」

「…聖君…ありがとう…。でも私、一人で大丈夫。それに、ママが警察に捕まるのはやだから…」

「…くそっ!」

乱暴に草をむしり取って、地面へ投げつけた。

「…私…辛い時や苦しい時、聖君のハーモニカ思い出して歌うから…ね?…」

哀しい陰りの中に"覚悟"を帯びた少女の笑みは、十歳とは思えぬ程大人びていた。それに比べて自分は結局何の覚悟もなかった。それなのに、どの口が"守ってやる"などとほざいたのか。口先だけの、浅はかで安っぽくて格好つけで幼稚な自分が心底恥ずかしくなった聖だった。

大人になりたい。そして必ずこの少女を地獄から救い出すんだ。

聖は今まで、これ程までに強く何かを決意した事など、一度もなかった。
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