この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
口琴
第12章 惜別の涙
意を決して、立ち上がる蕾。その姿はまるで戦場へ赴く兵士のように凛としていた。

一方、聖は立ち上がろうとしなかった。動き出せば、全てが終わるのだと思ったから。流れる川も、自分の胸で刻む鼓動さえも、時をせいているようで忌々しかった。

駄々っ子のように子供染みたことをしていることは百も承知だ。しかし、今の聖にはこうすることしかできなかった。

じっと、川面を見つめたまま押し黙る聖を見て、蕾が口を開いた。

「この靴…名前書いてある…『4ー3 大崎 聖』って」

蕾の足元にチラリと視線を移した聖が、口の奥の方でボソッっと反応する。

「…ああ、それも小四の時んだ…」

「うふっ、ちょっとおっきい。聖君、やっぱこの頃からおっきかったんだね?うふふっ」

蕾はスポーツブランドのスニーカーで足踏みし、ブカブカで、かかとがスポッと脱げそうな様子を楽しげに聖に見せた。

明るい天使のような声。満面の笑みを聖に向けて注ぐ。

これから、自分に起こる事への不安を微塵も感じさせない笑顔だった。

聖の胸は熱く、張り裂けそうだった。

何やってんだ…俺は…。聖は、自分をそう嗜めると、ゆっくり立ち上がった。

「…蕾…」

「…ん?」

「ずっと…笑ってろよな」

「…うん…」

聖は、蕾の細い腕を引き寄せ、包み込むように抱き締めた。

聖の胸に顔を埋め、ゆっくりと聖の背中に手を回す蕾。二人は、溶け合うよな熱い思いで抱き合った。

聖のTシャツの胸元が、じんわりと濡れ広がる。

聖は蕾の顔を両手で包み、いつかしたようにそっと親指で蕾の涙を拭うと、震える柔らかな唇に、優しく唇を重ねた。

「いつかきっと、お前を助けに行く」

「…うん…。聖君…ありがとう。さよなら…」




少女は、"聖"と言う心の炎を自ら吹き消し、再び闇の世界で生きることを選んだ。

少年は、この少女の為に何も出来ない自分に苦しんだ。

幼い二人の幼い愛は、決して幼くはなかった…。
/222ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ