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口琴
第12章 惜別の涙

意を決して、立ち上がる蕾。その姿はまるで戦場へ赴く兵士のように凛としていた。
一方、聖は立ち上がろうとしなかった。動き出せば、全てが終わるのだと思ったから。流れる川も、自分の胸で刻む鼓動さえも、時をせいているようで忌々しかった。
駄々っ子のように子供染みたことをしていることは百も承知だ。しかし、今の聖にはこうすることしかできなかった。
じっと、川面を見つめたまま押し黙る聖を見て、蕾が口を開いた。
「この靴…名前書いてある…『4ー3 大崎 聖』って」
蕾の足元にチラリと視線を移した聖が、口の奥の方でボソッっと反応する。
「…ああ、それも小四の時んだ…」
「うふっ、ちょっとおっきい。聖君、やっぱこの頃からおっきかったんだね?うふふっ」
蕾はスポーツブランドのスニーカーで足踏みし、ブカブカで、かかとがスポッと脱げそうな様子を楽しげに聖に見せた。
明るい天使のような声。満面の笑みを聖に向けて注ぐ。
これから、自分に起こる事への不安を微塵も感じさせない笑顔だった。
聖の胸は熱く、張り裂けそうだった。
何やってんだ…俺は…。聖は、自分をそう嗜めると、ゆっくり立ち上がった。
「…蕾…」
「…ん?」
「ずっと…笑ってろよな」
「…うん…」
聖は、蕾の細い腕を引き寄せ、包み込むように抱き締めた。
聖の胸に顔を埋め、ゆっくりと聖の背中に手を回す蕾。二人は、溶け合うよな熱い思いで抱き合った。
聖のTシャツの胸元が、じんわりと濡れ広がる。
聖は蕾の顔を両手で包み、いつかしたようにそっと親指で蕾の涙を拭うと、震える柔らかな唇に、優しく唇を重ねた。
「いつかきっと、お前を助けに行く」
「…うん…。聖君…ありがとう。さよなら…」
少女は、"聖"と言う心の炎を自ら吹き消し、再び闇の世界で生きることを選んだ。
少年は、この少女の為に何も出来ない自分に苦しんだ。
幼い二人の幼い愛は、決して幼くはなかった…。
一方、聖は立ち上がろうとしなかった。動き出せば、全てが終わるのだと思ったから。流れる川も、自分の胸で刻む鼓動さえも、時をせいているようで忌々しかった。
駄々っ子のように子供染みたことをしていることは百も承知だ。しかし、今の聖にはこうすることしかできなかった。
じっと、川面を見つめたまま押し黙る聖を見て、蕾が口を開いた。
「この靴…名前書いてある…『4ー3 大崎 聖』って」
蕾の足元にチラリと視線を移した聖が、口の奥の方でボソッっと反応する。
「…ああ、それも小四の時んだ…」
「うふっ、ちょっとおっきい。聖君、やっぱこの頃からおっきかったんだね?うふふっ」
蕾はスポーツブランドのスニーカーで足踏みし、ブカブカで、かかとがスポッと脱げそうな様子を楽しげに聖に見せた。
明るい天使のような声。満面の笑みを聖に向けて注ぐ。
これから、自分に起こる事への不安を微塵も感じさせない笑顔だった。
聖の胸は熱く、張り裂けそうだった。
何やってんだ…俺は…。聖は、自分をそう嗜めると、ゆっくり立ち上がった。
「…蕾…」
「…ん?」
「ずっと…笑ってろよな」
「…うん…」
聖は、蕾の細い腕を引き寄せ、包み込むように抱き締めた。
聖の胸に顔を埋め、ゆっくりと聖の背中に手を回す蕾。二人は、溶け合うよな熱い思いで抱き合った。
聖のTシャツの胸元が、じんわりと濡れ広がる。
聖は蕾の顔を両手で包み、いつかしたようにそっと親指で蕾の涙を拭うと、震える柔らかな唇に、優しく唇を重ねた。
「いつかきっと、お前を助けに行く」
「…うん…。聖君…ありがとう。さよなら…」
少女は、"聖"と言う心の炎を自ら吹き消し、再び闇の世界で生きることを選んだ。
少年は、この少女の為に何も出来ない自分に苦しんだ。
幼い二人の幼い愛は、決して幼くはなかった…。

