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口琴
第12章 惜別の涙
自転車の荷台の軽さが、聖には重かった…。

足に力が入らず、フラフラと進む。

どこを走っているのかさえ分からない。

頭の中で、誰かが自分を愚弄して嘲笑する。

結局何もできないまま、助けられないまま終わってしまった…。

後悔と自己嫌悪の渦に呑まれそうで、泥沼の浮遊物のように揺れていた。

薄暗い積乱雲が、空を支配し始めた。

躰の中が錆びて、ギリギリと軋む音が聞こえる…。

視界に入るもの全てを切り裂き、叩き壊したい程苛立っていた。




ブッー!ブッブッー!

突然聖の背後から、耳をつん裂くようなクラクションが鳴り響いた。

ハッと振り向くと、後方からやって来た白いワゴン車が聖の真横で停車し、助手席側の窓がゆっくりと下げられた。

運転席から少し身をかがめて覗くのは、惣一。

安堵して微笑む惣一の表情が、聖を更に苛つかせた。

「やっと見つけた。ほら、乗れ。自転車も乗せるから」

「…………」

眉をひそめ、あからさまに迷惑そうな顔で、無視を決める聖。

惣一は、気を遣ったような優しい口調で尋ねる。

「あの子は?帰ったのか?」

「…………」

黙ったまま、ペダルを踏み込む聖を見て慌てた惣一は、車から下りると自転車を追いかけて荷台を掴んだ。

「っ!待てっ!聖っ!」

「っんだよっ!離せよっ!もう、ほっといてくれよ!」

必死で振りきろうとするが、惣一は離さなかった。

「聖、悪かった。父さん達がちゃんとお前の話を聞いてやらなかったから。すまん。許してくれ。一緒に帰ろう。大事な話があるんだ」

「俺は話なんかねぇよ!うぜぇんだよ!」

聖は惣一の手を振りきると、躰を前傾にしてペダルを踏み込んだ。

「待て!聖!お前に黙ってた事があるんだ!」

キキーーッ!

ブレーキ音を響かせて、自転車は止まった。

「…なんだよ…それ…どう言う事…?」

惣一に背中を向けたまま顔だけ振り向き、父を睨み付ける聖。

「……それは……。と、とにかく車に乗ってくれ。頼むよ聖…。ほら雲行きも怪しくなって来たぞ?車で話そう」

「………………」

惣一は聖の肩にそっと手を回し、黙って俯く聖を宥めながら車に乗せた。
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