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欲情三分間〜ヨクジョウサンプンマ〜
第2章 ☆☆☆☆☆☆☆☆
まぁ、そのおかげで非常勤講師が出来ているし、
ノンフィクション講座を開設している自分がムッとするのも矛盾だけれど。




「あれのさぁ、
154ページの話が良いんだよなー。
豚をトラックで運ぶばあちゃんの話!」

田中は隣に座ると嬉しそうに笑う。




『そう?
写真家が新進気鋭だったからだわ。
運がよかっただけよ』
実際そうだ。
当時新進気鋭だった写真家は、
今では転じてアートディレクターとして空間プロデュースをしていた。
何冊も写真集を出してヒットさせた後のこと。







「ふーん、んで先生なんで怒ってんの?」
田中は夏だというのに、
7分袖のグレーのTシャツを重ね着している。


『あら?
わたし怒ってたかしら?』とぼける。



「うん。
眉間にシワ寄せてたから怖い」
田中はニコニコしていた。
ちっとも怖そうじゃない物言い。
田中の細い目が更に細まる。







学生たちを見ていると、
様々だなぁと思う。

流行りを必死に追いかけ、
目立つことに躍起になる子。

バイトをし、黙々と学業に励む子(個人的にはこの辺りが好ましい)。

たまに現れては講義中ずっと寝てる子。
学生が何を選択するかは自由だ。
だけど「一体何をしに大学に来たのか?」と疑問が浮かぶ子の多いこと。
まぁ、F大学自体が一流ではないし二流と三流の隙間辺りである。



見るたび、
(うちの娘は思いっきりあのグループに入りそうだな)と思案する。
派手で流行だけを追いかけるグループだ。
母親の私とは正反対。
今も美咲は黒髪を一つにひっつめ、
深いブルーのカットソーに白いカプリ丈パンツだ。
パンプスもノーヒール。
軽くファンデーションを叩き、口紅を引いただけ。


『さ、
戻らなきゃ』
美咲は一つに結んだ黒髪を縛り直す。

欠伸が出た。



「せんせー、
空き缶捨てとくよ俺」
田中がテーブルに手を伸ばした。


『え、いいわよそんなの。
半分くらい残ってるし』
美咲はけんもほろろに缶を持ち、
スタスタと食堂を出た。









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