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イカせ屋稼業
第8章 そのはち
甲斐・翔汰・拓矢の3人だけだと、

準備だけで時間がかかりすぎる。




もちろん、
DVD・レンタル屋にとっても利益を出さなきゃならないのだからスタッフが一生懸命なのは当然。



――――それでも、
支柱を立てたり机を置いたりしながら話す時間は楽しい。



『………拓矢はあんまり出来ないしな…………』

チラリと拓矢を見遣る。


早くも通りすがりの女性客に声を掛けて笑いながら雑談していた。



拓矢は(追い焚きボタンも炊飯器の使い方も知らないのだから、
当たり前といえば当たり前なのだけど)
テントの立てかたも知らない。



折り畳み式長机を開くのさえ出来ない。


『そうなんだ?
お姉さんと暮らせるテリアちゃん、幸せですよね』



…………犬の話しか…………………



『あ、じゃあフレグランスはワンちゃん嫌がるね………』
拓矢は目を伏せる。


すると女性客が『えっ、そんな事ないわよ〜。
一本試してみようかなぁ』と購入している。






―――前から思っていたんだけれど………
拓矢はしれっとしているようで、
何気に人の懐に飛び込むのが上手い。


客に「そんな事ないわよ」「買わなきゃ悪いなぁ」と思わせるのが上手いのだ。


…………背が高く、
黙って立っているだけでも目を惹くのに…………



『翔汰!
手が止まってるぞ』
『!はい……』


甲斐の注意にハッとした。


(……………ヤキモチ、とか…………??)


胸の真ん中辺りがチリチリ痛む。



(…………こういう感覚、感じたことがなかったからはっきり分からない)


翔汰は胸のうちにある感情を振り切り、
男性客に声を掛け始めた。
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