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イカせ屋稼業
第12章 そのじゅーいち
『S会の関西支部の張【はり】って男がいる。
一介の構成員で何の権力もないが、
容姿がこれだ。
張と〔そういう関係〕になったらしいよ、
師橋。
S会の内部までは分からないけれど…………
張は何かしでかしたんだろうな。
10億の借金抱えてる。
それを師橋に投げて消えたそうだ』



書類には、
ダンディーな美しさを持つ〔張〕の写真が印刷してあった。

黒髪短髪。
ハーフかと思うような彫りの深さ。



『なるほどね。
師橋も〔恋心〕には勝てなかったワケね…………』




『あの師橋でもな。
今まで色恋沙汰は無縁___というか恋愛相手すら平気で裏切ってきたのにね。

年、かなぁ』




『悠長なこと言わないでよぉ。
じゃあ…………師橋は何が何でも10億稼ぐってことね?』




『だな。
自分が危険だからな。
大手事務所を乗っ取ったとして、
10億に届くか……………』

昴はSっ気がある。


こうやって百合絵の〔社長魂〕を挑発し引き出すのだ。




『師橋なんかに取られてたまるもんですか。
アタシが何年かけて〔ミントリア〕を大きくしたと思ってるの』
憤然とする百合絵。
『S会の構成員と恋仲なんて……………
師橋もバカだったのね』







『恋は盲目なんだろうね』

昴は立ち上がる。

『行くのね?
気をつけてね、絶対よ』
百合絵は義理兄を見上げる。


昴は実兄・理【サトル】の右腕だ。

百合絵にとっても頼れる兄貴分の一人だった。



『ああ。
お前もだぞ』
百合絵の頬を撫で、
愛おしげに笑むと昴は出て行った。






百合絵は実兄・理と共に生きる昴に敬愛を持っている。



書類に目を通していく。

『S会、
関西支部………張。
ふ~ん…………………えっ?』
紙を捲る指が止まった。



『______うそ』



〔KANAME(佐嘉原了)は、
師橋条の実子。
KANAME本人は知らず〕



___とあった。




師橋条は、
昔から知っている。顔見知り程度だけれど、それでも同じ業界だから噂話は流れてくる。事務所社長同士はライバルながら懇親に思うものだが、
師橋だけは蚊帳の外にいた。〔nine〕の悪評が流れて来たのは最近のこと。

しかし〔男しか愛せない〕と有名だった。





『母親………………………誰よ?』
百合絵は思わず呟いた。


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